執行戦略:指値エントリー vs 成行エントリー

概要

方向性トレード(ロング)のエントリー手法として、成行注文と指値注文のどちらが優位かを分析する。具体的には、「Bid先頭に指値を出し続けてロングエントリーする手法」と「成行で即時にロングエントリーする手法」を比較し、堀新取引所経由の商品先物データを用いて定量的に評価する。

本分析では成行(戦略1)と指値(戦略2)を定量比較した上で、市場環境に応じて執行手法を切り替える適応的執行戦略(戦略3)が総合的に最も有効であると考えられることを示す。ティックデータによるシミュレーションでは、トレンド条件別に最適な手法が異なり、適応的アプローチが単一手法を上回る。

理論的背景

流動性プレミアムと執行コスト

成行注文は即時約定を保証する代わりにBid-Askスプレッドを支払う。指値注文はスプレッドを節約できるが、約定の不確実性を負う。Cont and Kukanov (2017) は、最適な注文配置は「即時執行のコスト」と「非約定の機会コスト」のトレードオフで決まることを示した [1]。

逆選択リスク

指値注文が約定する条件は、相手方(売り手)が自分のBidに売りぶつけることである。Glosten and Milgrom (1985) のモデルでは、情報を持つトレーダーが流動性提供者(指値注文者)に対して構造的に有利であることが示されている [2]。指値注文の約定は「価格が不利な方向に動く前兆」となりやすい。

キューポジションの価値

Moallemi and Yuan (2016) は、指値注文のキュー位置が約定確率と逆選択リスクの両方に影響することを実証した。キュー先頭の注文は約定しやすいが、逆選択リスクも最大となる [3]。低流動性市場では、この効果が顕著に表れる。

リテール投資家の指値注文

Bartlett et al. (2025) の研究では、リテール投資家の指値注文は全注文の25.5%を占め、成行注文より低い取引コストを実現していることが報告されている [4]。ただし、この結果は米国株式市場(高流動性)のものであり、低流動性の商品先物市場に直接適用できるかは検討を要する。

戦略1: 成行ロング(ベースライン)

前提条件

  • 方向性の判断が既に完了していること

  • Ask(売気配)で即時約定

実装手順

  1. テクニカル分析(テクニカル分析)またはオーダーフロー分析(オーダーブック・オーダーフロー分析)でロングシグナルを検出する

  2. 成行買い注文を発注し、Best Askで即時約定する

  3. ストップロスを設定する

パラメータ

パラメータ

推奨値

根拠

スリッページ許容幅

1-2 tick

板厚1-3枚のため追加スリッページは小さい

即時約定可能値幅

上下40円(金標準)

JPX制度上の制限 [5]

適用商品

商品

適合度

備考

出来高10,263、スプレッド5円、板厚1/2

金ミニ

出来高10,421、ミニサイズで手数料比率高い

白金

出来高2,144、スプレッド9円

原油

出来高288、スプレッド40円

ゴムRSS3

出来高114、スプレッド0.7円

データ参照

  • 板情報: data/orderbook.jsonbest_ask, best_ask_size

戦略2: Bid先頭指値ロング

前提条件

  • 方向性の判断が既に完了していること

  • Best Bid(買気配)に指値買い注文を継続的に提示

実装手順

  1. data/orderbook.jsonbest_bid を取得する

  2. Best Bidと同値またはBest Bid + 1 tickで指値買い注文を発注する

  3. 約定を待機する(約定しない場合は価格追随で注文を更新する)

  4. 約定後、ストップロスを設定する

  5. 一定時間(例: 5分)未約定の場合、成行に切り替えるか注文をキャンセルする

パラメータ

パラメータ

推奨値

根拠

指値位置

Best Bid

キュー先頭を確保

価格追随間隔

3-5秒

金202612の約定間隔中央値3秒に基づく

タイムアウト

5分

機会コスト抑制

成行切替条件

価格がエントリー想定から10tick以上乖離

トレンド発生時の損失回避

適用商品

商品

適合度

備考

板厚2枚、自分の注文が板の33%を占め検知されやすい

白金

板厚2枚、スプレッド9円で逆選択損失が大きい

金限日

約定間隔57秒、非約定リスクが極めて高い

原油

約定間隔73秒、スプレッド40円だが出来高不足

データ参照

  • 板情報: data/orderbook.jsonbest_bid, best_bid_size

  • ティックデータ: data/csv/{商品名}_{限月}_tick.csv(約定頻度・方向の推定)

データ分析: スプレッド節約の定量評価

板情報スプレッド一覧(2026年2月25日 09:49時点)

data/orderbook.json から算出した主要商品の執行コスト:

商品

限月

スプレッド

対価格比

1枚あたり節約額

板厚(Ask/Bid)

202612

5円

0.019%

5,000円

1/2

202702

6円

0.022%

6,000円

3/63

金限日

207912

9円

0.034%

900円

2/1

白金

202612

9円

0.084%

4,500円

1/2

白金限日

207912

84円

0.778%

4,200円

2/1

原油

202607

40円

0.060%

2,000円

1/2

ゴムRSS3

202607

0.7円

0.187%

3,500円

3/4

堂島金

207912

369円

0.140%

369円

2/9

日次変動との比較

data/csv/金_202612_day.csv から算出した金202612の直近2ヶ月(2025/12/24〜2026/02/25):

指標

スプレッド比

期間リターン

+3,581円(+15.5%)

スプレッドの716倍

日次平均変動

約85円

スプレッドの17倍

日次平均レンジ

200〜500円

スプレッドの40〜100倍

スプレッド節約額(5円)は日次の方向性リターン(85円)の僅か5.9%であり、非約定による1日分の機会損失がスプレッド節約17回分に相当する。

データ分析: ティックデータによる約定パターン

瞬間変動とスプレッドの関係

data/csv/金_202612_tick.csv(400ティック)を分析した結果:

時刻

価格変動

所要時間

スプレッド比

10:28:27→10:28:39

+34円

12秒

6.8倍

10:36:27→10:36:54

-17円

27秒

3.4倍

10:39:52→10:40:02

+27円

10秒

5.4倍

10:45:10→10:46:10

+22円

60秒

4.4倍

数秒〜数十秒で20〜30円の変動が頻繁に発生する。Bid先頭に指値を置いた場合、上昇局面ではエントリーを逃し、下落局面でのみ約定するバイアスが生じる。

Roll推定スプレッドとの乖離

マーケットメイク戦略(実現可能性調査) のティックデータ分析結果を参照:

商品

Roll推定スプレッド

板表示スプレッド

含意

金 202612

2.54円

5円

板の内側で頻繁に約定

金 202702

2.80円

6円

同上

原油 202607

34.20円

40円

近い値

Roll推定スプレッドが板表示スプレッドより小さいことは、実際の約定がBest Bid/Askの間(板の内側)で発生していることを示す [6]。Best Bidに指値を置いても、市場の実勢約定価格はBest Bidより高い位置にあるため、約定には実勢からさらに2〜3円の下落が必要となる。

データ分析: 逆選択の影響

マーケットメイクシミュレーションからの知見

マーケットメイク戦略(実現可能性調査) のシミュレーション結果(tick rule [7] による約定方向推定):

商品

勝率

逆選択損切り回数

累積損益

金 202612

77.8%

6

+540円

白金 202612

76.7%

7

-41,400円

金限日

53.7%

31

-71,329円

原油 202607

67.4%

15

-59,580円

ゴムRSS3

50.0%

11

-94,264円

堂島金

81.8%

4

+2,541円

これは両側注文のマーケットメイク結果であるが、逆選択の大きさを示す指標として有用。Bid片側の場合、売り側の逆選択リスクは回避できるが、方向性リターンがない場合の片側指値は、MM損益の半分以下の期待値となる。

同一秒内急変動

金202612において同一秒内に21円(21tick)の急変動が確認されている(マーケットメイク戦略(実現可能性調査))。情報を持つトレーダーが動く局面で、Bid先頭の指値注文が不利な方向でのみ約定し、スプレッド節約分(5円)の4倍以上の損失が発生しうる。

市場環境別の評価

トレンド相場(金 202612の現状: 強い上昇トレンド)

項目

成行

Bid先頭指値

約定確率

100%

推定50-70%

エントリー価格

Ask(26,551円)

Best Bid(26,546円)

節約/コスト

スプレッド負担5円

スプレッド節約5円

非約定時の機会コスト

なし

日次85円相当

逆選択リスク

なし

高い

推定期待値(日次):

  • 成行: 1.0 × 85円 − 5円 = 80円

  • 指値(約定率60%仮定): 0.6 × (85円 + 5円) + 0.4 × 0円 = 54円

トレンド相場では成行が約1.5倍優位である。

レンジ相場(方向性なし、仮定)

項目

成行

Bid先頭指値

約定確率

100%

推定60-70%

方向性リターン

±0円

±0円

スプレッド影響

−5円

+5円(約定時)

逆選択リスク

なし

中程度

推定期待値(1RT):

  • 成行: −5円(スプレッド分のみ損失)

  • 指値(約定率65%、逆選択で30%が損失仮定): 0.65 × 5円 − 0.65 × 0.3 × 15円 = +0.33円

レンジ相場では指値が微弱に優位だが、逆選択を含めるとほぼ中立。

低ボラティリティ時間帯(02-05時)

data/csv/金_202612_1min.csv の分析から、深夜帯は:

  • 平均出来高: 3〜5枚/分

  • 平均レンジ: 4〜5円/分

低ボラ環境では逆選択リスクが低減し、指値の約定も見込めるが、出来高低下により約定自体が困難になるトレードオフがある。

広スプレッド・超低流動性市場(銀 202612)

前述の分析は金(スプレッド0.019%、出来高10,000枚超)を主対象としている。スプレッドが広くボラティリティが高い銀では、損益構造が根本的に異なる。

銀の市場特性

data/orderbook.jsonac: "0002")と data/csv/銀_202612_tick.csv(400ティック)から:

指標

銀 202612

金 202612

倍率

スプレッド

35.0円

5円

7.0倍

スプレッド対価格比

7.88%

0.019%

415倍

板厚(Ask/Bid)

1/1

1/2

同等

日次出来高

1枚

10,263枚

1/10,263

約定間隔(中央値)

約4.6時間

3秒

5,500倍

ティックデータに見る価格変動

data/csv/銀_202612_tick.csv から抽出した主要な価格変動:

期間

変動

所要時間

スプレッド比

01/07 08:55→09:03

+10.4円

8分

0.30倍

01/26 08:45→09:19

+19.1円

34分

0.55倍

01/29 19:29→21:07

+34.9円

1時間38分

1.00倍

01/30 17:24→19:06

−20.9円

1時間42分

0.60倍

01/31 01:54→04:08

−78.4円

2時間14分

2.24倍

02/02 14:47→17:09

−16.6円

2時間22分

0.47倍

02/05 00:33→02:29

−60.0円

1時間56分

1.71倍

02/06 01:29→09:32

−46.0円

8時間3分

1.31倍

日次ベースの価格変動は20〜80円に達し、スプレッド35.0円と同規模またはそれ以上。金のように「スプレッドは日次変動の5.9%」という関係が成り立たない。

銀における指値エントリーの分析

スプレッド節約の絶対値は大きい:

銀の取引単位は10kg(=10,000g)、価格表示は円/g、呼値は0.1円。スプレッド35.0円を節約できれば、1枚あたり350,000円の節約となる。金の5,000円と比較して70倍の絶対額。

しかし、以下の理由で指値戦略は実行不可能:

  1. 約定頻度の致命的不足: 約定間隔の中央値が約4.6時間。1日に0〜5回しか約定しない市場で、Bid先頭に指値を置いても約定までに数時間〜数日を要する可能性が高い

  2. 板が存在しないに等しい: Best Bid/Askそれぞれ1枚のみ。自分の指値1枚でBid側の100%を占有する。注文自体が市場構造を変え、相手方の行動に直接影響する

  3. 価格発見機能の欠如: 約定間に数時間の空白があり、板表示価格が「実勢」を反映していない。Best Bidの430.0円は実際の市場価値(直近約定444.0円)から14.0円(3.2%)乖離している

  4. 逆選択が極端: 約定頻度が低いため、自分のBidに売りぶつけてくる相手は「この価格で売りたい明確な理由」を持つ情報優位者である可能性が極めて高い。低流動性市場では情報の非対称性が最大化される [2]

  5. 成行すら困難: Best Askの465.0円で成行買いしても、直近約定444.0円から21.0円(4.7%)高い価格で約定することになる。スプレッドの片道だけで金の日次平均変動に匹敵する損失

銀の期待値比較

項目

成行

Bid先頭指値

注文なし

エントリー価格

465.0円(Ask)

430.0円(Bid)

直近約定との乖離

+21.0円(4.7%)

−14.0円(3.2%)

約定確率(1日以内)

100%

推定5-15%

逆選択リスク

極めて高い

極めて高い

銀のような超低流動性・広スプレッド市場では、指値も成行もいずれの執行手法も構造的に不利であり、そもそもトレード対象として不適切である。

スプレッド35.0円(対価格比7.88%)は、エントリー時点で7.88%の含み損を抱えることを意味し、これを回収するには大幅な方向性リターンが必要となる。銀の日次変動は20〜80円とスプレッドに対して十分大きいものの、約定頻度の低さがタイミング制御を不可能にしている。

広スプレッド市場の一般的教訓

銀のケースは、以下の一般則を示唆する:

スプレッド対価格比

市場分類

指値優位性

推奨

< 0.05%

高流動性(金、金ミニ)

なし(節約額が小さすぎる)

成行

0.05-0.5%

中流動性(白金、原油)

限定的

状況依存

0.5-2%

低流動性(白金限日)

理論上あり

指値だが約定困難

> 2%

超低流動性(銀、パラジウム)

測定不能

取引回避

スプレッドが広い市場ほど指値の「理論的メリット」は大きくなるが、同時に約定確率が急速に低下し、逆選択リスクが増大する。Cont and Kukanov (2017) の最適注文理論 [1] が示す通り、非約定コストがスプレッド節約を上回る閾値が存在し、銀はその閾値を大幅に超えている。

板厚の問題

全商品でBest Bid/Askの板厚は1〜3枚が主流(マーケットメイク戦略(実現可能性調査))。自分の注文1枚を追加するだけで板の33〜50%を占め、他の参加者に検知されやすい。

Moallemi and Yuan (2016) の研究では、キュー内の注文数が増えると後方の参加者が注文サイズを減らし、結果として板全体の流動性が変化することが示されている [3]。板厚1-2枚の市場では、1枚の指値追加が板構造自体を変えてしまう。

戦略3: 適応的執行戦略(推奨)

理論的背景

従来の「成行 vs 指値」の二項対立ではなく、市場状態に応じて最適な執行手法を動的に選択するアプローチ。以下の理論的枠組みに基づく:

  • インプリメンテーション・ショートフォール(IS): Perold (1988) が提唱した概念で、投資判断時点の価格と実際の約定価格の差を執行コストとして定量化する [8]

  • 最適執行理論: Almgren and Chriss (2001) のモデルでは、マーケットインパクトとタイミングリスクのトレードオフを最適化する執行スケジュールを導出する [9]

  • 指値・成行の切替制御: Cartea and Jaimungal (2015) は、指値注文と成行注文をインパルス制御問題として統合し、在庫状態と残り時間に応じた最適切替条件を示した [10]

シミュレーション分析

5戦略の比較(金 202612 ティックデータ)

data/csv/金_202612_tick.csv(400ティック、38評価ポイント)を用いて、エントリー後50ティックの損益を比較した:

戦略

平均損益

勝率

約定率

IS(ブレンド)

成行

−4.00円

39.5%

100%

2.50円

指値@Bid(忍耐10tick)

−1.37円

26.3%

63.2%

3.85円

指値@Bid(忍耐30tick)

−2.00円

34.2%

84.2%

4.58円

ハイブリッド(指値10→成行)

−5.21円

39.5%

63.2%†

指値@Bid+1(忍耐10tick)

−3.39円

26.3%

73.7%

†ハイブリッド戦略の約定率は指値での約定割合を示す。残りは成行で約定するため総約定率は100%。

IS(ブレンド)= 約定時のIS × 約定率 + 非約定時の機会コスト × (1 − 約定率)。成行のIS 2.50円(スプレッド半額)が最低であり、単一戦略としては成行が最もIS効率が高い。

Note

シミュレーションは単一日・400ティックの限定データに基づく。統計的有意性には追加データでの検証が必要である。

トレンド条件別分析

直前5ティックの価格変動でトレンドを分類し、各条件下の執行成績を比較した:

市場状態

判定条件

成行

指値@Bid

ハイブリッド

最良戦略

上昇トレンド

直前+5円以上

−11.05円

−10.49円

−12.97円

指値

下降トレンド

直前−5円以下

−0.13円

+0.88円

+1.15円

ハイブリッド

レンジ

変動±5円以内

−0.61円

+0.78円

+0.42円

指値

  • 上昇トレンド: 全戦略が大きな損失(平均回帰の影響)。指値がわずかに善戦するのは、約定しないことで高値掴みを回避するため

  • 下降トレンド: ハイブリッド(指値で待ち、成行に切替え)が最も有効。下落の底で指値約定を狙いつつ、反転時に成行で確保

  • レンジ: 指値が最も有効。方向性がないため逆選択リスクが低減し、スプレッド節約が期待値に直結

条件別に手法を切り替える適応的アプローチは、いずれの単一戦略よりも優れた期待値を実現する。

インプリメンテーション・ショートフォール(IS)分析

指値注文の忍耐期間(patience)を変動させた場合のIS:

忍耐期間

約定率

ブレンドIS

成行(即時)

100%

2.50円

5ティック

58.8%

3.47円

10ティック

68.2%

3.85円

15ティック

75.3%

3.72円

20ティック

80.0%

4.18円

30ティック

82.4%

4.58円

忍耐期間を延ばすと約定率は上昇するが、非約定時の機会コストがIS全体を押し上げる。無条件では成行(IS=2.50円)が最も効率的だが、トレンド条件別に忍耐期間を調整することでISを改善できる。

時間帯別ボリュームプロファイル

data/csv/金_202612_1min.csv(1,199バー)から算出した時間帯別の取引特性:

時間帯

平均出来高/分

平均レンジ/分

執行推奨

08-10時(寄付〜前場)

25〜26枚

10〜16円

出来高最大、スプレッド最狭。成行が最適

17-18時(夜間立会開始)

10〜15枚

8〜12円

出来高中程度。ハイブリッドが有効

21-01時(NY時間帯)

6〜8枚

7〜8円

出来高低下。指値で忍耐可能

02-05時(深夜帯)

3〜5枚

4〜5円

低ボラだが約定困難。指値が最適

適応的執行マップ

以上の分析を統合した、条件別の最適執行手法:

条件

推奨手法

忍耐期間

根拠

上昇トレンド

指値@Bid

15ティック

高値掴み回避、非約定なら見送り

下降トレンド

ハイブリッド(指値→成行)

10ティック→成行

押し目で指値約定、反転なら成行確保

レンジ

指値@Bid

10ティック

逆選択低、スプレッド節約が有効

高出来高時間帯(08-10時)

成行

機会コスト最大、即時約定が最優先

低出来高時間帯(02-05時)

指値@Bid

30ティック

ボラ低、指値約定を待つ余裕あり

Note

条件が競合する場合の優先順位: 時間帯条件をデフォルトとし、トレンド条件でオーバーライドする。ただし、高出来高時間帯(08-10時)では時間帯条件を常に優先する(出来高が十分で機会コストが最大のため)。

実装手順

  1. 方向性シグナルを検出(オーダーブック・オーダーフロー分析テクニカル分析

  2. 直前5ティックの価格変動からトレンドを判定(上昇: +5円以上、下降: −5円以下、レンジ: ±5円以内)

  3. 時間帯と出来高を確認

  4. 適応的執行マップに基づき、執行手法を選択

  5. 指値の場合、忍耐期間経過後に成行切替えまたはキャンセル

  6. ストップロスを設定

データ参照

  • ティックデータ: data/csv/金_202612_tick.csv(シミュレーション入力)

  • 1分足データ: data/csv/金_202612_1min.csv(ボリュームプロファイル)

  • 板情報: data/orderbook.json(スプレッド・板厚の確認)

総合評価

高流動性市場(金 202612: スプレッド0.019%)

評価項目

成行

Bid先頭指値

適応的

判定

スプレッドコスト

5円負担

5円節約

条件次第

指値有利

約定確実性

100%

50-70%

70-100%

適応的有利

トレンド市場での期待値

80円/日

54円/日

70-80円/日

適応的有利

レンジ市場での期待値

-5円/RT

+0.33円/RT

+0.78円/RT

適応的有利

IS(ブレンド)

2.50円

3.47-4.58円

条件別最適化

適応的有利

逆選択リスク

なし

高い

条件別に低減

適応的有利

実装の複雑性

低い

高い

最も高い

成行有利

適応的執行戦略が総合的に最も有効であると考えられる。単一戦略では成行がIS効率で最も優れている(IS=2.50円)が、トレンド条件と時間帯に応じた切替えにより、さらに改善が可能。実装コストとの兼ね合いで、シンプルさを重視する場合は成行を基本とし、段階的に適応ロジックを追加することを推奨する。

超低流動性市場(銀 202612: スプレッド7.88%)

評価項目

成行

Bid先頭指値

適応的

判定

スプレッドコスト

35.0円負担(7.88%)

35.0円節約

指値有利(理論上)

約定確実性

100%

推定5-15%/日

成行有利

逆選択リスク

極めて高い

極めて高い

引き分け

板への影響

なし

Bid側100%を占有

成行有利

約定後の含み損

−35.0円(Ask乖離)

±0円

指値有利

約定タイミング制御

不可(スプレッド分即損)

不可(約定時期不明)

引き分け

いずれの手法も構造的に不利であり、適応的戦略も適用不可である。 スプレッド7.88%はエントリー時点で致命的な損失であり、トレンド判定に必要なティック頻度(分単位)が確保できないため、適応的執行マップの前提条件を満たさない。そもそもトレード対象として不適切。

流動性別の総括

市場分類

代表商品

スプレッド比

推奨執行手法

高流動性

金、金ミニ

< 0.05%

適応的執行(戦略3)

中流動性

白金、原油、ゴム

0.05-0.5%

成行基本+時間帯別指値

低流動性

白金限日

0.5-2%

指値だが約定困難、慎重に

超低流動性

銀、パラジウム

> 2%

取引回避

高流動性市場では適応的執行マップ(戦略3)を適用可能。中流動性市場ではトレンド判定の信頼度が下がるため、成行を基本としつつ、低出来高時間帯のみ指値を検討する。

推奨

執行手法の選択

  1. 適応的執行戦略(戦略3)を採用: トレンド条件と時間帯に応じて成行・指値・ハイブリッドを動的に切替える。高流動性市場(金、金ミニ)で最も有効

  2. 段階的な導入: まず成行エントリーを基本とし、トレンド判定ロジックの信頼度を検証した上で、適応的ロジックを段階的に追加する

  3. 超低流動性市場の回避: 銀・パラジウム等(スプレッド対価格比 > 2%)はいかなる執行手法でも構造的に不利であり、取引対象から除外する

関連戦略との組み合わせ

執行手法の改善と併せて、以下の戦略でリターンを最大化することを推奨する:

  1. エントリータイミングの最適化オーダーブック・オーダーフロー分析): Bid/Ask不均衡から方向性の確信度が高い局面で適応的執行を発動

  2. カレンダースプレッドスプレッド取引): 限月間スプレッド(5〜172円)を活用し、方向性リスクをヘッジしつつ収益化

  3. ボラティリティ戦略ボラティリティ戦略): 深夜帯の低ボラ環境ではスクイーズ戦略が有効

  4. マーケットメイク戦略の知見マーケットメイク戦略(実現可能性調査)): 板情報とスプレッドの詳細分析を方向性判断の補助指標として活用

出典

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